リモージュボックスの歴史

 リモージュボックスは18世紀にフランスの貴族階級で愛用された「嗅ぎタバコ入れ」が原点と言われています。嗅ぎタバコの葉を小さなボックスに入れ、それを携帯して持ち歩くというわけです。「嗅ぎタバコ入れ」は金属製、木工製、磁器製などいろいろな材質で作られていたようですが、この中の磁器製のものがのちのリモージュボックスへと繋がります。「嗅ぎタバコ入れ」はそもそも「ヒンジ・ボックス」のひとつの応用で、金属のヒンジを使って開閉し、しっかりと閉まるように出来ているのが特徴です。ヒンジ・ボックスはこのほか薬を入れる為のピルケース、裁縫用具入れ、化粧道具入れなどいろいろな用途に使われました。

 この頃のボックスは長方形や楕円形、あるいはハート型や卵型などシンプルなシェイプが主で、花や果物、天使などの絵が描かれていましたが、やがて持ち主が個性を競うようになり、人物や動物などをモティーフにしたシェイプが現れます。

クラシックタイプのボックス

初期のシェイプは現在、クラシックタイプと呼ばれ製作されています。

 金属製のボックスには金属細工や七宝焼で飾りが施され、当時これらの技術を得意としたリモージュの技術が活躍したようですが、磁器製は主にパリ近郊のヴァンセンヌ、セーブル、サン・クロード、あるいはドイツのマイセンなどで作られていました。

 リモージュでカオリン(磁土)が発見されたのは丁度この18世紀の後半(1771年)。発見された当初、リモージュ産のカオリンはセーブルの王立製陶所に運ばれて使われており、磁器製作がリモージュ独自の産業として発展するにはまだ時間がかかります。

 リモージュで磁器製の小型ボックスが作られるようになるのは19世紀の前半。フランス革命による貴族階級の衰退とともに「嗅ぎタバコ入れ」の流行が途絶えてしまったずっと後のことでした。嗅ぎタバコなどの用途に限らず、むしろボックス自体がコレクションの対象となり、「リモージュ・ボックス」と呼ばれて広く親しまれるようになるのは、さらに後のこと。世界的なコレクションとして、さまざまなテーマの複雑なシェイプのボックス、いわゆるモダンタイプのリモージュボックスが数多く作られるようになるのは20世紀後半、1970年代からのようです。

フルーツのリモージュボックス 

写真はさまざまなヴァリエーションを持つモダンタイプのきっかけを作った作品。くわしくはギイ・ヴィエイユ氏インタヴューをごらんください。

 中世の時代から受け継がれた金属細工、七宝工芸技術と、磁器の聖地として高度な磁器製作技術を持ち合わせたリモージュで製作され続けたからこそ、「嗅ぎタバコ入れ」が「リモージュボックス」へと発展し得たのでしょう。 リモージュボックスは、そのように古くから連綿と受け継がれる技術と現代のセンスが融合して出来た、まさにリモージュならではの作品なのです。

リモージュボックスの制作工程

 アンリ・パリー氏のご協力を得て、貴重な原型の公開も含め、リモージュボックスの制作工程を追ってみました。

 

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アイデアスケッチをもとに、まず原型がつくられる。そしてこの原型からモールド(型)を作り出す。

写真は当店でご紹介の「竪琴を弾く天使」の貴重な原型。細部まで細かく作り込まれていることがわかる。

 

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モールド(型)は通常3つ以上のパーツから出来ている。

写真の場合、天使の背中の羽の部分に合わせて複雑にパーツが分けられている。

 

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いよいよモールドのなかに液状の磁土を流し込む。磁土は短時間で固まる。モールドをパーツごとに慎重にとりはずし、出来上がった素地を取り出す。

 

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素地をひとつひとつ、手作業で丁寧に釉薬を施す。釉薬の中に数秒、さっと通す。コツのいる作業。

布地の上で擦り、余計な固まりを取り除く。その後、一回目の焼成を行ない白素地に仕上げる。

 

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出来上がった白素地。磁器独特の滑らかな光沢。

 

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絵付けが施され、次の焼成を待つ作品。色の数や組合わせによって幾度も焼成される。

焼成時間や温度は慎重に管理されている。

 

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最終の絵付け。細筆やペン先によって細部が描かれる。

 

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最終焼成を経て並べられた作品。この後、近隣の留め金付け専門工房へ運ばれ作品が完成する。

リモージュボックス - 良い作品を見分けるポイント

 良い作品を見分けるポイント(本物・偽物を見極める)

 当店でご紹介するリモージュボックスは、全てがリモージュの経験豊かな工芸家によって作られた「本物」ですから、安心してご購入いただけます。

 このコーナーでは広く一般に出回る数多くのリモージュボックスについて、良い作品を見極めるポイントをお話しいたします。

 リモージュボックスの本物と偽物の見分け方については、作品に焼き込まれた記述(例:Limoges France : Peint main)や留め金の品質などをチェックする方法が一般的に知られているようですが、制作事情や流通なども考慮すると、実際は幾分複雑な判断を要します。

 実のところ、そもそも「本物」とは何か?というところから考える必要があります。単純に考えるとリモージュで作られたものを「本物」とするのが自然な発想でしょう。事実、白素地の作り方、焼き方、絵付けの方法、留め金の取付け方法など、全ての工程にリモージュ独自の技術があります。ですからここでは本物の定義を『全ての工程をリモージュに於いて行ない、リモージュの技術で作られたもの』とします。何故、わざわざこのように定義するのかと申しますと、作品に「Limoges France : Peint main」の記述があっても、全てが上記の定義を満たすものとは限らないからなのです(!)。

 それではさっそくチェックポイントを挙げて、順に説明してゆくことにしましょう。ポイントは以下の5つです。

1、 作品の裏底か中底の記述、工房印などをチェック。

2、 白素地(白磁)部分の白さをチェック。

3、 絵付け部分の輝きと質感。

4、 留め金のクオリティー。

5、 証明書の有無。

1、 作品の裏底か中底の記述、工房印などをチェック

  工房印例1 工房印例2 工房印例3

 1)「Limoges France」「Peint main」 - ほんとうの意味

 リモージュボックスの裏底や中底には約束で決められた「Limoges France」や「Peint main」などの記述、作られた工房を示す工房印や工芸家のサインがあります。これらは最終焼成前に記入されたものですから絶対に消えません。以下に主な記述パターンを見てみましょう。

図表1

 ここで注目していただきたいのは「Limoges France」が白素地の製作のみを指していること。手描きを示す記述と厳密には関連していないということです。

 リモージュのいくつかの工房では、完成品を出荷することと平行して、他の「絵付け工房」の為に白素地を卸しているところがあります。ですから白素地がリモージュ製であっても、手描きの絵付けがパリ近郊や南仏の工房、あるいはアメリカの工房で行なわれる場合もあるのです。そしてその場合でも「France Limoges / peint main」と記入されるのです。つまり白素地はリモージュ製ですから「France Limoges」、絵付けが手描きであれば世界中どこの工房で行なわれても「peint main」が記入され、結果「France Limoges / peint main」と並ぶわけです。「リモージュではないから技術が劣る」とは限りませんが、コレクションがブームとなったアメリカでは大量のリモージュ産白素地が輸入され、リモージュとは関係のない工芸家が「有名絵付け師」と称してサインを記入するような製作が行なわれているようです。

写真-店頭の白素地 リモージュでは白素地も販売されている

 全ての工程がリモージュで行なわれたことを示す為には、例えば「Fabriquee et peint a la main a Limoges France」などと記されることが理想なのでしょうが、小さな作品の中に細々と文字を入れるのは困難で手間がかかることから、現状では真のリモージュ製であっても現行のままのシンプルな記述が受け継がれています。本物の場合は次に述べるように「工房印」が効力を発揮しますから、特別細かく記する必要がないこともあるのでしょう。いずれにせよ、現在の記述を改善するようなルールが業界内で再検討されない限りは、購入する私たちが記述の意味を正しく理解した上で吟味する必要があります。

 2)工房印、サイン

 以上のことから「France Limoges」「peint main」以上に重要な意味を持つのが「工房印」や工芸家の「サイン」と言えます。共にリモージュの工房や作家に関する知識が必要となります。特にサインの場合はイニシャルのみの記入が多々見られますから、確かな情報を得た上で判断しなければならないでしょう。

 3)「ブランド名」の記入について

 工房印とは別に「ブランド名」が記入されている場合もあります。精巧な品質で知られるブランド「Chamart」や「Rochard」は工房の名前ではなく、アメリカのディストリビューター(輸入販売会社)の名前です。これらのブランドではアメリカ向けのモデルを企画することはあっても、全ての製作はリモージュの工房に依頼していますから、正真正銘のリモージュ製です。当店でご紹介しているアンリ・パリー氏とギイ・ヴィエイユ氏もこの2社に依頼されて製作することがあります。その際は自身の工房印ではなく、ブランド名を記入して仕上げています。例えば「Rochard」のブランド名で、かつての「PV」モデルが散見されるのは、このような事情によるものなのです。

2、 白素地(白磁)部分の白さをチェック

 作品の底や内側など絵付けの無い部分で、白素地(白磁)部分の白さをチェックします。良質のカオリン(磁土)を使ったものは美しい白さを持っていますが、反対に粗悪なものはくすんで灰色がかっています。また、技術が未熟で焼成加減の悪いものは、黄ばんでいたりします。

3、 絵付け部分の輝きと質感

 絵付け部分の色がハッキリと強く出ていることがポイントです。絵付けに使う絵の具は大変デリケートです。調合の仕方が悪いものは色が薄くなってしまい、極端なムラが出来てしまいます。

4、 留め金のクオリティー

 磁器部分にしっかりと取り付けられた留め金もチェック項目です。本物の留め金のヒンジ部分(開閉軸)には特別な加工が施されており、180度開ききってしまうことはありません。

5、 証明書の有無

 製作工房あるいは販売店発行の証明書が付いている場合があります。これは作品に記された工房印と並んでもっとも信用に足る条件ですが、まずは「良い作品ありき」ですからチェックポイントの最後にあげさせていただきました。

補足)同じ白素地のモデルを見つけたら

 白素地の卸売買、あるいはブランド名による製作依頼などの背景から、全く同じ白素地を使ったモデルでも以下のようなパターンが存在する可能性が考えられます。

・、 工房印は同じ。しかし違う絵付けパターン

 製作工房では同じ白素地でも絵付けのパターンを変えてヴァリエーションを増やすことがあり、これは比較的多く行なわれています。

・、 工房印は同じ。同じ絵付けパターン。しかし違う筆致

 複数の絵付け職人を抱える工房の場合は、おなじモデルでも職人ごとの技術やセンスによって違いが生じる場合があり得ます。リモージュの工房であっても、経験の浅い職人の仕事には明らかに見劣りするものがあると聞きます。ちなみに、そのようなものは工房印を記せず別経由で安く売られることもあるそうです。

・、 同じ絵付けパターン。筆致も同じ。しかし工房印が違う場合

 リモージュの工房が販売店(主にアメリカ)のオーダーにより、ブランド名(あるいは販売店の略号)を記述して製作する場合があります。

・、 違う工房印。絵付けパターンや筆致も違う場合

「絵付け専門工房」が白素地を購入して仕上げた作品。同じリモージュ内の工房の場合もありますが、フランスの他の地方、あるいはアメリカの工房などで仕上げられた可能性もあります。この場合、絵付けセンス、顔料、焼成技術などはまちまちですから、よく吟味する必要があります。

偽物について  

 白素地も絵付けも全くリモージュと関係がなく、コレクション・ブームに乗じて作られたものです。人気モデルをそっくりそのままコピーしたものも存在するようです。「Limoge」(最後にsが無い)、「Amoges」「Limoges-China」などの記述があると聞きますが、しっかり「Limoges France」と記した偽物もあるようです。

補足 ) リモージュ風ヒンジ・ボックス

 世界の数ある工房の中には「リモージュ風ヒンジ・ボックス」などの表現で、リモージュボックスのスタイルを尊重し真面目に作品を作っているところもあるようです。当然リモージュ製ではありませんが、この場合は製作者の意図をしっかり理解し、価値を納得した上で購入することが大切でしょう。

リモージュボックスと日本

 このコーナーでご紹介するリモージュボックスは当店で扱うモデルや工芸家と直接の関係はありませんが、リモージュボックスと日本との関わりを語る時に外すことの出来ない貴重な作品ですので豆知識として採り上げてみました。

日仏共同制作のリモージュボックス

 リモージュ市と日本の陶磁器の街・愛知県瀬戸市が姉妹都市を締結して一年後の2005年、一周年を記念する行事の一環として日仏共同制作によるリモージュボックスが企画されました。

 制作を担当したのは瀬戸市の陶磁器工芸工房「株式会社中外陶園」とリモージュの工房「アルティザナル・リモージュ」「エルダ・クリエイションズ」。中外陶園が運営する『招き猫ミュージアム』のオリジナル・ボックスとして中外陶園側でコンセプトが進められました。

 ソファーとベッドの白素地はアルティザナル・リモージュ、花車と椅子はエルダ・クリエイションズによって用意され、それに合わせて中外陶園が猫のキャラクターをデザインしています。絵付け、焼成、留め金付けなどリモージュボックスならではの作業は全てリモージュ側で行なわれました。

 同じ磁器製作の世界ですが、磁器に合わせて留め金を調整するリモージュの工法と、金具の寸法に合わせて磁器を焼成する瀬戸側との制作視点の違いも明らかになり、品質の安定には思いがけない苦労もあったようです。

 二国間の行政事業のバックアップを受けて制作されたという意味でも、リモージュボックスの歴史の上で大変珍しいものと言えるでしょう。

 本記事制作にあたって、取材と写真提供を快諾してくださいました株式会社中外陶園様に心より御礼申し上げます。

 上記の作品について、入手方法などの詳細は下記リンクよりお問い合わせください。

 

おもだか屋 おもだか屋

お客様の声を大切にしたいとの思いからスタートした中外陶園の直営ショップ「おもだか屋」

招き猫ミュージアム 招き猫ミュージアム

招き猫づくりにこだわる中外陶園が、明治以来100年の歴史を持つ招き猫の生産地・瀬戸にふさわしい「招き猫ミュージアム」をオープン。ここには板東寛司・荒川千尋ご夫妻の個人コレクション数千点を展示しています。